Le Pont

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内なる冒険

2002/12/11 (��) 05:19 | Kaléidoscope, Le Pont

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冒険。道の先にパンを買いに行く。人生に乗り出したばかりの子供にとっては、それも冒険だ。遠くの知らない国へ行く。民族研究のためであろうと商業目的であろうと、経験を積んだ者の探査であろうと、それも冒険だ。世界のどこかでホームステイをして、お互いを知り合うことだって冒険だ。自分自身と自然への挑戦でもある、一人きりの帆船世界一周も。誰もが他の人とは似ても似つかないタイプの冒険を自分なりに生きる日が必ずやってくる。

1874年、日本開国の際に日本に滞在した祖父の跡を追って、冒険に出た84歳のアルザス出身の男の人と知り合う機会があった。又、第二次世界大戦以後、労働者5人の機械部品製造会社を3000人の大企業にまでもち上げた男の人にも会った。スイス国境に近いジュラ県から貧しい家族と共にパリにやって来て、帽子をつくっている女の人。歌をうたい続け、詩人たちの女神にまでなった情け深い女性、、、ありふれたものから並外れたものまで、冒険の例には事欠かない。

子供が生まれて存在するようになり、存在することを認識するまでの冒険とは、どんなものだろう。それから、誕生から大人になるまでの冒険とは。そして、中年から死に至るまでの冒険とは。誕生の前は、そして死の後は、、、
人が外部に触れるその瞬間、知らないうちに冒険は始まる。中も外もまだ存在しない母体という安全な殻から出るなり、冒険は始まるのだ。
受胎以後、形成されてゆく私達の体の中で、感覚の認識が徐々になされてゆく。
誕生時に、私達は何が起こっているのかを意識しはしない。外に出ることによって、母体という絶対性で得た知識から容赦なく遠ざかってゆくことなど考えもしない。「存在すること」と「存在することを意識すること」の間に何の違いもない、私達のいた明確な母体を。
冒険が始まる。産声、最初の呼吸で前と今との違い、痛々しい違いを感じることになる。この一息は、同時に言葉への入口でもあり、私達を世界征服の道へと導く。そして、私達は年月を経てこの境目を実感することになる。
一つ言っておかなければならない。外部世界の征服は自分自身の内部征服に他ならない、と私は確信している。見解の違いでしかないのだ。
私達の肉体に宿っている精神は、その乗り物である体をうまく操縦しなければならない。食べる、見る、笑う、呼ぶ、聞く、尋ねる、愛する、歩く、伝える、、、こうした新しい力の使用を習得し始めた子供にとって、これらの能力をうまく使うこと自体、既に驚くべき征服なのだ。そして神経を接続して、人間の思考を学び、自分のいる環境の生活様式になじんでゆく。 日常において、自分の内部感覚を管理する。外部に耳をすますと同時に、自身の事も聞けるようにならなければならない。他人を尊重することは、自分自身を大事にすることでもあるのだ。

子供達は、その環境の中で、家族と共に経験を積んでゆく。石を1つずつ積んで、家を建ててゆくようなものだ。こうして自身の機能、特徴、個性を確立してゆくのだ。子供達は、この世に生まれてくる地盤となる大地を選んだ。家族や国がそうだ。先祖たちの投影と宿命を受け、その上で幼児期という経験の土台をつくってゆく。少しずつ改善を重ねて、自分達に備わった、記憶細胞に組み込まれた可能性を作動させるのだ。
最初のうちは感知していなくとも、私達は目的をもっている。少年期には個性がはっきりし、青年期には方向が定まり、中年期にはその目的に向かって進み続けるか、投げ出してしまうか、、、達成感が得られるかどうかは、内的存在である私達と、その私達のなす行為の適合度にかかっている。個人開花は、誠実な探求と引き換えに得られる。

そして死が近づいた時、内的混乱が起こり、収支が出るものと思われる。問題提起、影の部分、記憶に埋もれた暗い出来事、「言わなかったこと」や「正面から立ち向かわなかったこと」への悔い。もしくは達成感。この収支によって、死に向けての感情が違ってくる。穏やかな気持ちや平和な気分であることもあれば、抵抗や恐怖の感情を抱くこともあろう。

私にとって冒険とは、誕生から死に至るまでにパオロ・コエロの言う「個人伝説」をどれだけ達成できるかだ。それがなんであれ、自分の立てた計画に必死で打ち込むことと、自分の与えられる最上のものを自分の身と魂に与えることとをうまく配合しながら。

ここに今、身も心も存在することは、複雑な試練である。時には鋭い知性を眠らせて、なすがままに感覚と一体化し、二元性を放棄して、内なる声に従うことが必要だ。砂漠におけるオアシスに、大海に浮かぶ島に辿り着くのが難しいように、その冒険も容易ではない。

だが、それもすばらしい冒険ではなかろうか。

マリエル・リック

ヨガ教師、造形美術家(写真、絵画、、、)
パリ、メニルモンタン在住