都市は私たちの共通空間である

2005/09/18 Sunday 10:58 | Arts Vues, Le Pont

Le Pont 6 ARTS VUES Claire Laporte 1
クレール・ラポルトの世界におけるシティーは、非現実的ではあるが、見慣れた舞台における赤裸々な芝居であり、ほとんど俳優のいない舞台装置であり、光のコ ントラストである。これはもちろんオスマン時代の華麗な建築物、ビストロ、河、橋、運河、産業の歴史を舞台にした日常のパリであり、あるいはまた日の当た るテラスと黄土色の壁のバルセロナである。奇妙なことに、すべてが適切な場所に置かれているにもかかわらず、何一つ全く同じではない。この洗練された都会 の描写には、頭の中で理解している既知のものと実際に見ているものとの間に不思議なギャップが存在する。都市は確かに私たちの共通空間である。しかし、私 たちは各自、都市の中に自分の都市を思い描いている。 風景は肉眼で見ることができる世界の顔である。大自然によって彫刻された風景、あるいは人間が作り上 げた人工的な風景は、古くから芸術家の主要なインスピレーション源の一つとなっている。激しく変わる流行から遠のいて、クレール・ラポルトは「風景画家」 になりたいと思った。1995年にアメリカから戻って以来、溢れんばかりの都市のイメージを油絵にしたくて、グラフィック作品を放棄した。エドワード・ ホッパー、ジョルジュ・ブロー、ジョン・スロアンなど、特定のアメリカ人画家からインスピレーションを得て、具体的な他のすべての都市とは異なる都市とい うものを描いている。

クレール・ラポルトの絵画の特異性は、車も人もほとんど登場さ せずに、何処かひんやりする不気味な静止状態にある静かな都市空間を描き出しているところにある。日常のカオスや現実の雑踏から離れ、グレーの調和と派手 な色彩のコントラストを用いて、ブルーと赤による冷たい世界、あるいは褐色とグリーンによる暖かい世界がためらいもなく姿を現す。これは、日頃私たちが時 間をかけて見ないために、見逃してしまっている都市をテーマにした絵画作品である。夢なのか、それとも現実の断片なのだろうか?彼女は、観る人の視線を捕 らえ、あれこれ考えるために、現実の断片を詩的な鏡に映し出しているのである。

映画館「ラ・パゴダ」に関する彼女の 仕事には、非時間的で、魂が宿る、はかない場所という彼女の表現意欲をかき立てる主題が完璧な形で総合されている。トーガのドレープと蔓状の植物群の背後 に隠れたアジア風寺院を真似た奇妙なファサードを観てください。この建物は、屋根と木骨組みの壁とガラス戸しか見えないが、赤いラッカー塗装の足場が組ま れているところを見ると、パゴダが老朽化しているのがわかる。乳色の空に突き出た開口部のない煙突に沿って密かに這い登るブルーの陶製のぎざぎざした縁の ように、この秘められた栄華は、私たちの好奇心をそそる。この絵には一つの世界が存在し、その世界の顔は、映画「Far from Heaven」のポスターの女優ジュリアンヌ・ムーアのうつろな(おびえた?)目付きをしている。

クレール・ラポル トの画法は、私たちの周囲に存在する線や色調や透明感にじっと目を向けさせる。わざとらしさやメーキャップがない技法には、何となくほっとさせられる。彼 女の言説は概念的でもなければ魅惑的でもない。つまり、自然に描き、気のむくままに絵画的感動を分かち合うこと。これが最も謙虚な野心における最大の贅沢 である。ただじっと、キャンバスの油絵具が乾くまで目を開いているだけ。急いでいる人は棄権する。
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