光満ちる
美術家にとっては 作品を作りつづけることが冒険となる
長い時間をかけて自分を探し求めていく
私たちが生まれる前から在った美しいものは 私たちの後にも在り続ける
生きている間に本質的なものに触れて 自分自身を見出していく
*
私たちは最初から自分を知りはしない 予定することもできない
個人的だと思われた体験が 広々とした「普遍」に至る隘路であったことを知る
彼方には なお辿りつけない「未知の自我」が待つ
ひとつの作品を作ることは この過程そのものだ
自然の美しさに触れ 何ものも予定せずに描き始める
やがて意識下の自分が映しだされて行く
この繰り返しが なお知り得ない自分自身を紡ぎだす
*
世界が光に溢れている体験をしたことがある
暗く長いトンネルを抜け出たように 周りの何もかもが美しく
煌めく光に包まれて幸せだった
光は根源的で 人間が作ったもの「音楽」や「美術品」に収斂する
光の導きにしたがって生きることにより 自分は自分に成れることを知ったとき 絵を描きたいと思った
*
日本に生まれ 地中海の島に住み フランク王国の故郷に住む
パリのサント・シャペルのヴィトローに
初期油彩画 写本画 七宝 ロマン・ゴチックの建築・彫刻群に
メロヴィングの宝石細工を源とした同じ光が秘められている
ケルトとゲルマンの混成地帯に生まれた光の芸術
かつて日本にもあった内面の光の芸術
*
ヨーロッパの古層に眠る大地母神に触れたとき ある音楽が私を打ちぬいた
マルセル・ペレスの放った閃光は 遥かな古代から射してきた
星降る野に向く巡礼の地 モワサックの修道院教会で
オルガンにむかう 彼の横顔をみつめていた
曲がモーツァルトになったとき 私は振り返って教会堂の内部を見おろした
無数の炎が揺らめく中 光が層になって響き渡っていく
薄明りのなかに音楽が満ちる
*
絵を描くことは祈ることと同じ
祈りは キリエ・エレイソン ミゼレ-レ
影も光
光 満ちる
五味政明
東京生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒。
スペインにて初期油彩画技法の研究。
古典技法実習過程を「絵画ノート」に著す。
独自の光層画法をSilky Painting と名付ける。
現在ベルギー在住。