Le Pont

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光満ちる

2002/12/11 (��) 03:52 | Kaléidoscope, Le Pont

美術家にとっては 作品を作りつづけることが冒険となる
長い時間をかけて自分を探し求めていく

私たちが生まれる前から在った美しいものは 私たちの後にも在り続ける
生きている間に本質的なものに触れて 自分自身を見出していく

私たちは最初から自分を知りはしない 予定することもできない
個人的だと思われた体験が 広々とした「普遍」に至る隘路であったことを知る
彼方には なお辿りつけない「未知の自我」が待つ

ひとつの作品を作ることは この過程そのものだ
自然の美しさに触れ 何ものも予定せずに描き始める
やがて意識下の自分が映しだされて行く
この繰り返しが なお知り得ない自分自身を紡ぎだす

世界が光に溢れている体験をしたことがある
暗く長いトンネルを抜け出たように 周りの何もかもが美しく
煌めく光に包まれて幸せだった

光は根源的で 人間が作ったもの「音楽」や「美術品」に収斂する
光の導きにしたがって生きることにより 自分は自分に成れることを知ったとき 絵を描きたいと思った

日本に生まれ 地中海の島に住み フランク王国の故郷に住む
パリのサント・シャペルのヴィトローに
初期油彩画 写本画 七宝 ロマン・ゴチックの建築・彫刻群に
メロヴィングの宝石細工を源とした同じ光が秘められている

ケルトとゲルマンの混成地帯に生まれた光の芸術
かつて日本にもあった内面の光の芸術

ヨーロッパの古層に眠る大地母神に触れたとき ある音楽が私を打ちぬいた 
マルセル・ペレスの放った閃光は 遥かな古代から射してきた

星降る野に向く巡礼の地 モワサックの修道院教会で
オルガンにむかう 彼の横顔をみつめていた

曲がモーツァルトになったとき 私は振り返って教会堂の内部を見おろした
無数の炎が揺らめく中 光が層になって響き渡っていく

薄明りのなかに音楽が満ちる

絵を描くことは祈ることと同じ
祈りは キリエ・エレイソン ミゼレ-レ

影も光
光 満ちる

五味政明

東京生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒。
スペインにて初期油彩画技法の研究。
古典技法実習過程を「絵画ノート」に著す。
独自の光層画法をSilky Painting と名付ける。
現在ベルギー在住。